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猫舌帝國

創作サイト「猫舌帝國」内の日記です。

2024'05.07.Tue
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2009'07.26.Sun
▽所用でらぶれたーを書きました。
のでらくがき文を晒します



童話風ラブレター2.

夕焼けの赤が私は好きです。
自分の家の窓から、ひとりきりで、誰も通っていない道路を照らし始める外灯の白っぽい明かりと見比べるときの夕焼けの赤が好きです。
まるで世界が終わるみたいです。
世界が終わるというモティーフが私は好きです。
ソドムも、バベルも、ノアも、裁きさえ下れば、何もかも許すという神様の、壮大に微笑ましい物語が生まれる、世界が終わるというモティーフが私は好きです。
まるで子供の喧嘩みたいです。
子どもの喧嘩を見るのが私は好きです。
虫の数や、日焼け跡や、足の速さや、くだらない理由で喧嘩をする、必死な、溌剌とした表情を浮かべる、そんな子どもの喧嘩を見るのが私は好きです。
まるでラフマニノフの音楽みたいです。
ラフマニノフの音楽が私は好きです。
楽譜の上で奔放に遊ぶおたまじゃくしが、白鍵と黒鍵の上に散らばると、競い合いながら、けれど以心伝心で足を運び、鼓動をどこまでも高めていく、ラフマニノフの音楽が私は好きです。
まるで都会の高層ビルみたいです。
都会の高層ビルの中が私は好きです。
夏は寒く、冬は熱く、外の喧騒から切り離されていて、壁は人工的で、案内嬢がいて、ビル内の人間には連帯感があって、一つの島であるかのような、都会の高層ビルの中が私は好きです。
まるでSF小説みたいです。
SF小説を読むのが私は好きです。
虫歯が痛む時も、心が傷ついた時も、ひとりきりが寂しい時も、ピーター・パンのように、空の彼方や、地面深くや、夢の中に、颯爽といざなってくれる、SF小説が私は好きです。
あなたは。
あなたは、私の好きなもののどれひとつとして、似ていません。
だから、私はたぶん、あなたが嫌いです。
あなたは。
夕焼けの赤というより、夏の青空みたいだし。
世界の終りというよりは、メシアの誕生みたいだし。
子どもの喧嘩をするよりは、無邪気な遊びを楽しむ方だし。
ラフマニノフというよりはビートルズだし。
高層ビルの中というよりは児童館の遊技場だし。
SF小説というよりはサッカーの解説書だし。
なにより私は、あなたの好きな物を何も知らないし。
だから、予感がするのです。
あなたの好きな物を私に教えてください。
そうして、好きな物の、共通点をひとつずつ、見つけていきましょう。
きっと、そうしたら、私は、あなたを好きになる。
お返事、きっと、書いてください。
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2009'02.18.Wed
『余命半年』

余命半年。
ガン宣告を受けたその日、僕の家に珍客がやってきた。
そいつは吉田戦車のマンガの登場人物みたいな姿をしていた。耳を持っていて、鼻を持っていて、瞳はつぶらで、手は短く脚も短かった。胴がずんぐりしていて、でべそだった。
上から下までじっくりながめて、僕は玄関のドアを閉め忘れていたことに気づいた。
「勝手に入ってきちゃだめだろ」と僕は言った。
「そうなんですか?」とそいつは答えた。間延びした、伸びすぎたパンツのゴムみたいな声だった。けれどつぶらな瞳を見ていると、どうも追い返すのが哀れになった。吉田戦車のマンガが好きだって言うこともある。
そいつを追い出さずドアを閉めた。冬の冷気が行き場を失って戸惑っていた。

そいつにコーヒーと紅茶どちらにするかと聞くと、水道水がいいと言われた。仕方がないので僕だけコーヒーを飲むことにした。ついでなのでお湯をそいつに渡したら、妙に恐縮していた。
「で、なにか用なの」
「いいえ」
即答されて僕は大いに弱った。それを察したのか、そいつはやっぱりありますと言ってくれた。よかった、と僕は思った。なんのいわれもなく不法侵入されては、僕の立場がなくなってしまう。
「宿に困っているんです。良かったら泊めてください」
断ろうかと思ったけれど、お湯を啜っているそいつを見たら、どうも断るのが気の毒になった。一人でいるのが嫌だって言うこともある。
がんなら伝染するわけでもなし、僕は結局頷いてしまった。

男は口が重いというのが世の常なので、僕たちは黙りこくっていた。(そいつが男なのかはよく分からなかったけれど)冬の日が徐々に暮れてきた。夕日がとてもきれいだった。そろそろ夕食を作ろうかと思ってそいつを見ると、夕日をきらきらした目でみていた。夏の木漏れ日みたいな瞳が可愛らしくて、僕はなぜか愛着を感じてしまった。ベランダに出るかと聞いてみると、高所恐怖症なので良いですと断られた。それなら近所を散歩しようかと誘おうと思ったのだけれど、そうこうするうち日は落ちてしまった。
夕食は何にしよう?
冷蔵庫の食品を前に悩んでいると、そいつがとことこやってきた。の前に、台所の入口で良いですか、と聞いて冷蔵庫をのぞく前に良いですか、と聞いた。妙なところで遠慮深いやつだと思った。
一緒にごそごそ漁っていると、くさったレタスが出てきた。緑の野菜がそれ以外なかったので、買いにいかないと食卓の見栄えが悪いなあと思った。そいつは僕からそれを受け取った。捨てておいて、というとそいつは頷かずに台所を出た。僕はひとりで献立を悩んだ。カレーとサラダ。レタスは買ってこよう。決めて立ち上がるのと同時、そいつがやってきた。手には新鮮そうなレタス。どうしたのかと聞くと、そいつはつぶらな瞳をぱちくりさせた。しっぽがぱたん、ぱたんと揺れていた。

カレーとサラダは上出来だった。
テレビを見た後僕は歯磨きを勧めた。カレーは、放っておくとちょっとにおうのだ。そいつははいと頷いて、僕と一緒に洗面所に入った。
買い置きの歯ブラシを開けてやろうとすると、とんでもなく恐縮しだした。けれど僕はそいつに歯ブラシを使ってほしい気持ちだった。僕の歯ブラシはこの間あけたばかりで、次のかえどきはたぶん半年くらいあとだからだ。そしてその半年が問題で、きっと僕はその買い置きを使う機会がないだろう。
いいからいいからと開けてやると、そいつはゆっくり口に入れた。僕がしゃこしゃこ歯磨きをしているとなりで、そいつはいきなり吐き出した。ぺっ!
「どうしたの」
「この歯ブラシ、味がまずくって」
歯ブラシの味なんて考えたことがなかった。べつに食そうとしたわけではなく、口に入れるだけでも味は気になるらしかった。歯磨き粉でもごまかせないらしかったので、僕たちは歯ブラシを買いに行くことにした。
夜十時。コンビニでそいつはくんくんにおいを嗅いで歯ブラシを吟味した。たった三種類しかなかったけれど、お気に召したものがあるらしかった。冬の夜空はとてもきれいで、僕たちはとてもすがすがしい気持ちになった。
夕暮れのときは出られなかったので、僕たちはそのぶんのんびりと道を歩いた。そいつはとても申し訳なさそうにしていたけれど、僕は少しだけ嬉しかった。はじめてそいつにわがままを言われたのだ。なぜだかとっても気分が良かった。
「むだにお金を使わせてしまってごめんなさい」とそいつは言った。「人間の方って、お金がとても大切なんですよね」とも言った。
僕はうーむと唸ってから、銀行の預金高を思い出した。半年寝て過ごせるくらいの貯蓄があった。
「でもね、僕はもうお金を大切にしなくていいんだ」と僕は言った。そいつが天の川みたいな瞳で僕を見上げた。僕はするりと口にした。「僕は半年で死んじゃう病気にかかってしまったから」と。
そいつはびくりと固まった。僕はその様子をみてくすくす笑ってしまった。なんだかあんまりおかしくて。そいつはいいやつだとこころから思った。僕はお金を気にしなくていいし、損得なしでそいつに親切にできるし、冬の星空を見上げる余裕だってある。気分が良かった。そいつが望むなら、わがままをいくらだって聞いてやることができるのだ。
そいつが短い足で僕に駆け寄ってきた。僕はそいつの頭を撫でてやった。そいつのしっぽがぱたり、ぱたりと揺れていた。

朝目覚めると、そいつは枕元に座っていた。
「そろそろ行きます」とそいつは言った。「歯ブラシ、洗面所に置いとくからいつでも泊まりにくるんだぞ」と僕は言った。半年間限定だけどね、ともちゃんと付け足した。そいつはぴょこんとお辞儀して、玄関から出て行った。

次の週、僕は病院に行って診察を受けた。入院の手続きもあるためだ。
そうしたら、お医者さんは難しい顔をして僕の検査結果を持ってきた。
「あれは間違いだったみたいです」と彼は言った。
僕たちは首を傾げあった。
そいつが一年後に泊まりに来ても迎えられるのだと思うと、ただそれが嬉しかった。

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